社長室シリーズ番外編5

2020/07/14(火) 他サイト掲載作品


空に書いたラブレター

 

これは、悪い夢から覚める時の感覚に違いない。助かった。あれは夢だったんだ、目が覚めれば、すべて元通りだ。アンドレはガンガン痛む頭をゆっくりと上げました。

「アンドレ!大丈夫か」
ぼんやりとした視界の中にはロザリーとベルナール。
「アンドレ!オスカルさまはどこ?」
その一言に、アンドレはがばっと勢い良く身を起こしました。

「ロザリー!俺は…そうだ、フランソワとジャンは!」
「研究所から1キロ程離れたところで私達だけを路上に置いて行ってしまったの」
「…くっそう…!」

アンドレは再び思いっきり手近にあった機材をぶん殴ろうとして、気づきました。モニターが生きています!妄想隊全員に身に付けさせた個体識別式発信装置が13個、モニター上で点滅しているではありませんか!

逃走する彼らが単にはずし忘れているのか、罠か。十中八九罠でしょう。しかしたとえ罠であってもこれがオスカルにつながる唯一の線なら放すものか。アンドレは機材に飛びつきました。

「ベルナール、運転してくれ。パリ市警本部だ」
「何が起きた」
「道々話す。急げ」

アンドレは遠距離追跡仕様に機材をセットアップしながら、事実を話しました。ロザリーが大洪水を起こしましたが、ベルナールが拘束されていた間に知った事実も恐るべき内容でした。

世界でナンバー1のシェアを誇る大手製薬会社ガメツーイの豊富な資金援助で、ドゲメーネ裏研究所が開発していたのは、何と細菌兵器だと言うのです。

ベルナールは研究所に出入りするあらゆる人物資材を細かく念入りにチェックしていました。人物ならその詳しいプロファイル、物資なら製造元は勿論、製造元の資本源、株主、原材料原産地、輸送ルート、手段、買いつけ値、など。そこで得た結果を掛け合わせると、どうしても兵器製造にしか帰着しない条件が揃ったのです。

そこでその中の資料の一部を携えて、再度取材を申し込んだところ、拉致監禁され、試作兵器の実験に使われるところだったのでした。そこのところでまたロザリーが再び洪水を起こして、いったん話が中断しました。

「いったいどんな細菌を開発したんだ」
「それがよくわからんのだが、直接人を殺めるタイプの大量殺戮兵器とは違う。そんなものを使える時代ではないからな。もっと間接的な兵器らしい。冷戦が終了した後もそこここで戦火は耐えないが、内戦が続いている国々は、中東の一部を除いていずれも経済的には弱小国だ。

長引く内戦で国力は疲弊の一方を辿るばかりのな。それで武器ディーラーはかつての大口顧客が欲しいのさ。そして大口顧客がいないなら、いっそ作り出してしまえばいい、と思いついた」

「作り出す?」
「ああ、そこで国際的な闇の武器製造シンジケートと武器コネクションが結束してガメツーイ社にその兵器を発注した。驚くほどの高値でな。その細菌兵器は人間の恐怖と不安を増幅するのだそうだ」

「それだけか?」
「そうだ、誰も死なない、傷つかないばかりか、細菌兵器に感染したことすら気づかせない。ただ人は疑い深くなり、恐怖におびえ、いつ誰に寝首をかかれるか不安な日々を送る」

「成る程、そして保身のため武器が欲しくなる、ということだな。細菌兵器が中性子爆弾のように一発で広範囲を犯すことができるなら、その恐怖は国家レベルにまで膨らんで…」
「そのとおりだ。大国が国防と称して次々に憲法を改悪し、臨戦体制になる。その均衡が敗れればまた世界大戦だ」

「…その目論見は確かなのか?」
「確かも確か。俺は実験番号103だったんだぞ」

アンドレは、体中に凍りつくような戦慄を覚え、頭を抱えました。真っ青になったロザリーが震える声で尋ねます。

「それと、オスカルさまの誘拐とどう関係があるの?」
「関係があるかどうかはわからんが、その細菌兵器は何か決定的な条件が揃わずに完成一歩手前で凍結してるらしい。俺が監禁されたままで済んだのもそういうことなんだ」

「オスカルが関係するとすれば、妄想啓蒙に貢献したことくらいしか思いつかない。ベル風邪と細菌兵器が何か関わりがあるか…。いやそれだけではオスカルを連れる理由としては弱いな」

アンドレはそこまで言うと、黙ってまた額に拳をあてて、黙り込みました。悔しくて、切なくて胸が切り刻まれるようでした。オスカルの行方。驚愕の事実。仲間と思っていた連中の裏切り。左頬に一筋、涙がつたい落ちました。

オスカルを連れ去った元仲間。その仲間を雇っていたドゲメーネ衛生研究所が水面下で行っていた脅威的な研究。オスカルを連れ去った目的がわからないので、どうしても最悪の結果を想定してしまいます。そして仲間の裏切りの痛みがアンドレにさらに追い討ちをかけました。

フランス空軍時代を経て、もっと自分の可能性を確かめてみたいと望んだオスカルに付き合う形で、アンドレは国防省準軍事警察部隊の中の対テロ特別部隊GIGNのメンバーになりました。初の女性メンバーとして注目を集めただけでなく、男にも過酷な精鋭部隊でみるみるうちに頭角を現したオスカルは指揮官となり、その下に集結したチームが彼らだったのです。

飛行中のハイジャック機に潜入した時は、炎上を始めた機体を辛くも海面に不時着させることに成功し、最後の一人を救出した数秒後に機体が大爆発したこともありました。小学校に数百名の生徒を人質に立てこもったテロリストを拿捕に向かった時は1週間も不眠不休で張り込み、国交のない国へ、捕虜を救出に極秘で送り込まれたこともありました。

いつも、いつも、もうここまでかと思える危機を、チームワークで切り抜けてきたのです。その後進む道は分かれても、生涯の友だと思っていた仲間でした(ガラは悪いけど)。その彼らの裏切りは、心底こたえました。

*   *   *   *   *   *

「待ちなさい!アポなしで警視総監に会うことはできない!とまれ!」

パリ市警本部の中央階段を二段飛ばしで駆け上がる長身の男を取り押さえようとした若い警部補が、男の勢いに跳ね飛ばされ、よろよろと起き上がったところを、もう一組の若い男女に吹っ飛ばされました。

キンキンド派手~な両開き扉がばあんと開かれ。

午後のお茶の時間だったのでしょう。完璧なとび色ロングヘアウェーブを肩の上に揺らせた灰色の鋭い三白眼、美白対策ばっちり、髭は永久脱毛卵肌の男(?)がぺルメスの新作、かじられた白バラ模様のカップと、爪楊枝の三色旗が立てられたクレームブリュレの皿を両手に持って思案しているところでした。

つかつかと近づく侵入者に向かって、お兄さん版バービー人形のような男は、あわてる素振りも見せずに悠然と言いました。

「やあ、アンドレ・グランディエ。そろそろ来る頃だと思っていましたよ。用件を聞く前に君に聞きたいのですが。漆黒の悪魔の香り、南国の情熱を秘めたるショコラを先に味わうべきか、

三つの人類の宝、すなわち卵、砂糖、ミルクの完全たるハーモニー、クレームブリュレを先に味わうべきか?これは究極の選択ですよ、君。どちらの味も壊さず、互いの味を引き立てる順序…」

バン!アンドレはマーブルのテーブルが真っ二つに割れんばかりの勢いで両手をつきました。ショコラのカップがふっ飛んでバービー男、おっと失礼若き警視総監長ジェローデルの真新しいデオールのドレスシャツを染めました。


完璧にカットされた眉がひくっとわななき。
「…君がそろそろ来る頃とわかっていながら今日の3時にショコラを選んだ私のミスと言うべきでしょうね。では用件に参りましょうか。今朝こんなものが届きました。自動スピード違反取締り機にはっきりと録画されている、美しい豊かな流れる髪をした…」

「男だろう!そういうことにしておけ!」
「おお、怖…。では今回はその手で行きましょうか?」
「今日は別件だ」
「オスカル嬢、今回は間違いなく免停になりますよ、いいのですか?」
「免停にしたくても、本人が拉致されたのではできんだろう」

ジェローデル・ド・バービーの顔色がさっと変わりました。
「今、何と!」

「オスカルは国際武器ディ-ラーコネクションに拉致された。目的はわからない」
「詳しく話してください!」

ところどころ、ベルナールが交代しながら、信じられないような事態の説明がなされました。しかし、状況を説明する二人の様子からして、信じないわけにはいきません。ジェローデル警視は愕然としました。とすればこれはフランス一国の国防以上の大事件です。すぐにでも動きたい、しかしこれは警視総監とは言え、一介の市警が扱える範囲を超えています。

「手順を…踏む必要がありそうですね。うかつに動いて国交問題にまで発展しては…」
「証拠を分析して、捜査令状を取り、容疑者を確定してから、逮捕状か。単なる誘拐なら端折ることもできるだろうが、国際レベルの犯行だ。慎重に末端の別件逮捕から始まって、真相の裏を取ってから組織の中枢を崩しにかかる。しかもサミット参加国に打診して各国の意向を調整してから国際合同捜査本部を設置する。そんなところだろう。一週間はかかるぞ。待ってなどいられるか!」

「気持ちはわかりますよ、君。しかし私の権限をもってして動かせるのは市警レベルです。待ってください、今すぐ捜査本部を…」

今度はベルナールが割り込みます。
「俺も拉致被害者だ。証拠は敵の防犯カメラが捕らえた映像を傍受したものがある。令状などすぐに取れるだろう。しかも俺以外に十数名の子供が監禁されていた。みんなマスコミ関係者の家族だ」

「何と…!」
「猶予はない。相手は結束すれば全流通ユーロと同等レベの資金力と政治力を持つ集団だ!下手に時間をかけて嗅ぎまわれば、報道への圧力をかけるための人質を立てに、開き直った組織トップが堂々と国家警察に挑戦してくるぞ。迅速に人質を救い出さねば取り返しがつかなくなる」

ジェローデル警視は真っ青になってしまいました。こんなことなら、ショコラとクレームブリュレを食す順番など思案せずに、さっさと先に楽しんでおけば良かったと思ったかどうかは定かではありませんが。

アンドレが、そんなジェロ-デル警視に、彼にしては珍しい不敵な笑みを投げかけました。

「法と秩序を守らなければならないトップでいるのは辛いな。市警の立場では超えてはならない壁もあるだろう。ジェローデル警視、あなたにはオスカルの些細な掟破りを黙認してもらった恩がある。その礼に手柄を立てるチャンスを進呈しよう」

「細かくてあい済みませんね。で、どういうことですか?」
「今日は都合よく革命記念日だ。じきパリ上空で恒例の航空ショウが始まる。もし、大衆の目前でアクロバット飛行中のフランス空軍自慢のミラージュが盗まれ、そのまま逃走したらどうする?

現行犯だぞ。あらゆる手続きなしで直接軍に出動依頼が可能だな。事件勃発を最初に察知し、いち早く犯人の逃走ルートを割り出し、犯人の逃走先に近い海軍、空軍へ援軍要請を飛ばすのはあなただ。

そして、偶然にも犯人が逃げ込んだ島には、国際武器ディーラーのボスが集結して、違法な細菌兵器の製造と行使を策謀していたら?ちゃちな戦闘機ドロボーを追っていたつもりが、世界的規模のテロ集団を挙げることになる。どうだ、わくわくするだろう?」

「ちゃちなって、戦闘機ドロボーはコソ泥とは訳が違う!後で庇いきれるかどうかわかりませんよ!それに敵のアジトを海空軍で包囲したはいいが、その後どう突入するのです?軍隊を動かせるほどの決定的な物的証拠は何も挙がっていないのですよ」

青くなってがたがたと震えだした警視をアンドレはさらに大胆な微笑で制します。

「誰が庇って欲しいと言った?それからあなたは忘れている。敵の内部に囚われているのは只の人質ではないことを。オスカルだ。あいつが大人しく黙って捕まったままでいるとお思いか?

あいつはたった一人でも兵器製造と行使を阻止しようと動き出す。あいつが中から連中の企みを暴けば物的証拠のバーゲンセールになるぞ。その時髪入れずに援軍を送り込めるよう、アジトを包囲しておけ!」

「いくらオスカル嬢とはいえ、一人でそんなランボーのようなことは…!」
「ふふ、見ていろ、あいつはきっとやるぞ。ベルナール、そういう訳だ。俺は行く。ドゲメーネ衛生研究所にいる人質が保護されたらおまえも動けるな」
「アンドレ、本気か?それなら俺も…」
「マスコミにはマスコミの武器があるだろう」
「う…く…っ」

アンドレは、ジェローデル警視総監長室の壁に掛かっているでかいフランスの地図のある一点に、ぶすりと三色旗を立てました。そう、警視の三時のおやつに立っていた爪楊枝の旗です。

「場所はここだ。下に停めてあるバンの中のコンピュータに今までの情報が全て残してある。好きに使え。警視、くれぐれもタイミングを計り損ねるな。戦闘機ドロに途中で追いついてしまっては、敵のアジトへ軍を案内できないぞ。俺も空中戦はごめんだ。間違って行く手を阻むものがあればその限りではないがな。

それから戦闘機ドロは敵のレーダー反応域直前で低空飛行になるから、レーダーから消える。だが、目的地はここだ。ツアーガイドは任せたぞ」

アンドレは、言い終えると唖然と突っ立っているジェローデル警視にピッと二本指で敬礼し、あっという間に走り去って行きました。

20分後、警視のもとへ武器保管庫から自動小銃とスナイパー仕様のライフルとロケット砲が砲弾、弾丸もろとも盗まれたとの連絡が入りました。パリ上空で綺麗に平行飛行する3機のミラージュが、トリコロールカラーの煙幕で三色旗を空に描いた途端、その中の一機が列から飛び出し、青い煙幕を残して南へ飛び去る模様を革命記念祭を実況生中継していたアナウンサーが絶叫生中継したのは、そのさらに約30分後でした。

「まったくどっちがランボーだか…」
忙しく人質の子供達を救出するチームに指示を出しながら、ゲームの開始ゴングに武者震いに震える若き警視でした。



エーゲ海に浮かぶ小さな個人所有の島。一軒だけ建っているモダンな建物は一見リゾートホテル風。白い砂浜には椰子の葉で葺いたコテージがいくつか散在し、数艘のクルーザーが桟橋に繋がれて揺れる様は、どう見てもリゾートアイランドなのですが、そのホテル風建物の中では。

「実に面白い話だった」
椅子に後ろ手に括り付けられたオスカルが、にやりと上目使いで正面にいる女に挑発的な視線を投げつけました。

「で、私をこうしてご招待してくださったからには、私にもそれなりの分け前があると思ってよろしいか?」

「嬉しい誤算だったわ。あなた方が始めた啓蒙活動をそうとわからないように阻止させようと送り込んだ下っ端が、まさかこんな大きな獲物を連れて戻るとはね。あなた達も命拾いしたわね。与えた仕事の成績の悪さに、そろそろ処分を考えていたところだけど、お手柄に免じて許してあげましょう」

黒い革のボディースーツに身を包んだ、高く結い上げた玉ねぎヘアに真っ赤な唇が白い肌に浮き上がる、少し眠たげな退廃的な黒い瞳の女が、居並ぶ妄想隊員にちら、と目をやってから、オスカルに近寄り、その顎に手をかけました。

「何と美しいこと。惜しいわね、この豪華な花を散らしてしまうのは」
「わざわざ散らすためにここへ?ご苦労なことだ」
「もちろん、その前に必要なものはいただきますとも」
「ほう?冥土の土産に聞かせてはくれまいか?何が欲しい?」

「そうね、せっかくだから教えて差し上げましょう。ようやく開発に成功したフィアーチェイン・ウィルスだったけれど、どうしてもワクチンを作り出すことができなかったの。それではフィアーチェインは使えないわ。私たちまで感染してしまう。

そこで一度は暗礁に乗り上げかけた第二次冷戦招致計画だったけれど、何とベル風邪という妙な風邪に感染してできる抗体が、フィアー・チェインにも有効だということがわかったの。

ただし欠点はベル風邪に感染するのはある特殊な体質の人間のみだということ、そしてその抗体は、感染した人間ごとに独自の特性を持っていて、培養して第三者に接種しても抗体として機能しないこと。結局ベル風邪に感染することのできる人間のみがフィアー・チェインの脅威から自由でいられる」

「それで、ベル風邪についての情報をコントロールしようとしたのか。マスコミを牽制して、ベルリサーチの存在をもみ消そうとした」
「それもあるわ。でももっと厄介だったのは、ベル風邪体質の人間は、ベルウィルスに感染などしなくても妄想を習得すれば、ベルウィルス抗体相当の免疫ができるということが新たにわかったこと」

「それで妄想啓蒙活動を潰そうとした」
「そう、ところが啓蒙活動を阻止させるために雇ったチンピラは、ことごとく失敗した」
「ふふふ、そうとも言えんな。阻止とまではいかなくも、十分足は引っ張ってくれたぞ」
「余裕だこと。それも今のうちよ。パリはあなたのせいでフィアー・チェインが効かない町になってしまったけれど、そのくらいで食い止められてよかったわ」

「そうかな?パリは国際色豊かな町だ。じきにパリ市民から世界中に飛び火する」
「私達がフィアー・チェインを世界中に発射するのとどちらが速いかしら?」
「ワクチンの問題が解決しないうちに、そのようなことはできはしまい」
「それが、今日解決がついたのよ」
「な…に!?」

「おほほ、ようやく顔色を変えたわね。この世でたった一人、生まれつき強力なベル抗体をその脳下垂体に持つ人間がいることがわかったのよ。仮にその抗体を【黄金の盾】と呼ぶことにしましょう。【黄金の盾】だけは母体を選ばずどんな人間の免疫機能にも適合する。

早速【黄金の盾】を持つ人間を手に入れるために特殊部隊を編成し終わったのが今日。そうしたら、別の目的で雇ったチンピラがその【黄金の盾】を持つ人物を捕えて来たじゃない?」
「私のこと…か」

「そう、オスカル・フランソワ!あなたこそが【黄金の盾】を持つこの世でたった一人の人間。ようこそ、闇十字救世軍へ。You made my day!Beauty」
「それがシンジケートの名前か。救世軍だと?ふざけたネーミングだ」

勝ち誇った笑い声が、白い建物の中に響き渡りました。すると、その笑い声をねじ伏せるようにひとりの男の声が上がります。

「おばさんよ、啓蒙活動を阻止するにゃあ、妄想隊長を押さえちまうのがはええと思ったんだがなあ、そんな大そうなお人だったとは驚えた。だがその割にゃ、ご褒美が足りないんじゃないかい?あんた、これでど偉く儲かるんだろ?」

アラン・ド・ソワソンです。

「おっ、おばさんですって?」
「やああ、すんません、モンク・タレール伯爵夫人」

「モンテ・クレール公爵よっ!馬鹿ね、命拾いしただけでも有難く思いなさい。連れてきたのが只の妄想隊長だったら、あなた達は今すぐ消されてしまうところだったのよ。目立たずそうとわからず啓蒙活動を鎮火させよとの命令だったのに、警察の厄介になったりした挙句、パリじゃちょっとした有名人のオスカル・フランソワが失踪したなんて事件になれば、そこから闇十字救世軍への線が浮かび上がらせるリスクを孕むでしょう!」

「ひえ、こわ~っ」
「でも偶然とはいえ、オスカル・フランソワが【黄金の盾】を持つ者であるなら話は別よ。よくやったわ」
「じゃ、じゃあ、ご、ご褒美は…?」
アランのかげからジャンがおそるそる顔をだしました。

「まだよ、オスカル・フランソワの脳下垂体から抗体を取り出して組織に必要な分と、各国主要人物に売りつける分を無事に培養できたら考えてあげるわ。取り分が欲しければ、それまで大事なお客様を見張っていることね。逃がしでもすれば当然何も出ないわよ」

 
その時。けたたましく鳴り響く警報。
「何事?」
「はっ、それが…フランスの戦闘機が一機、上空を旋回しております」
「戦闘機?」
「はっ、撃ち落しますか?」
「お待ち。わざわざ軍事設備があることを知らせてどうするの。ここはプライベートリゾートなのよ」

モンテ・クレール公爵夫人は急いで中央管制塔へ走りました。
一面ガラス張りの広間から、確かに上空から海面スレスレまで高度を下げた三角翼の白いボディが見えたと思うと、真っ直ぐ一直線に建物に向かってくる戦闘機の姿が迫ってきました。そして戦闘機はぎりぎりまで建物に近づくと、急上昇し、機体の腹を見せて窓ガラスを掠めるように飛び去りました。

「エリザベートさま!わかりました!パリの革命記念祭中に、デモ飛行中の戦闘機が一機、何者かに盗まれたとニュースになっています。確認しましたが今上空を飛んでいった機体と盗難機が一致しました」

「盗難機?まずいことになったわ。盗難機なら確実に追跡がかかっているはず。迎撃よ。ただし撃ち落とさずに遠くへ追い払って!軍や警察にこの場所に来られたらたまったものではないわ」

「はっ!戦闘体制レベル2に入ります!」
「フィアー研究班!大至急【黄金の盾】採取と培養、ワクチン精製を急いでちょうだい!雲行きが怪しいわ。第二次冷戦招致計画が発覚する前にフィアー・チェインを5大陸へ発射してしまうのよ!」

「そ、それが…!」
「もう、今度は何!」
「オスカル・フランソワがいません!」
「な、なんですってえ!」
「見張りの連中だけが泡吹いてぶっ倒れていました!」
「探すのよ!虱潰しに探して!ここは孤島よ、逃げらるはずはないわ!」

オスカルは、細菌兵器のコントロールルームを探して、闇十字救世軍基地内を走っていました。エリザベート・モンテ・クレールの口ぶりでは、細菌兵器そのものはすでに完成して、発射準備まで整っているはず。兵器には迂闊に手を出せないとしても、必ずある筈の制御装置を解除してしまわなければ、暴れるに暴れられません。

『そういう細かい仕事はな、本来ならおまえの役目だ、アンドレ。私の専門は壊し屋だぞ』

いるはずのない彼が何故か傍にいるような気がして、次から次へと襲って来る闇十字救世軍兵士をなぎ倒し、ぶっ飛ばしながら、つい彼の姿を探してしまうオスカルでした。

コントロールルームは15階建ての建物の最上階、ペントハウスにありました。
360度ガラス張りの広い部屋の中央に巨大なマザーコンピュータがでん、と鎮座ましましています。あまりにも見通しの良すぎるロケーション。極秘に侵入することなど不可能です。

その場所を一人の兵士を締め上げて聞き出したオスカルは、勝負に出ることを決めました。奪った小銃を一丁右手にし、自動小銃を左手に、弾丸を両肩にたすき掛けして。

「逃げたかと思ったが、そっちからやって来るとは、恐怖のあまり気が狂ったか」
ペントハウスへの扉を自動小銃で撃ち抜いて中へ入ると、そこには武装した兵士が固める中、ドゲメーネがいました。オスカルの背後からも次々と武装兵が追いつき、銃を構えます。オスカルは、ゆっくりと自分の喉下に小銃の銃口を押し当てました。

「オスカル・フランソワ、何のまねだ」
「ゆっくり話がしたいと思ってな。【黄金の盾】が欲しければ今しばらく私に手出しは無用だ。さもなくば【黄金の盾】は私もろともぶっ飛ぶぞ」
ドゲメーネは周りを取り囲む兵士達に銃を降ろすように合図を送り、オスカルに向き合いました。

「取引でもしようと言うのか?周りを見ろ。いくら【黄金の盾】を切り札にチラつかせても、もう貴様には逃げ道はないぞ」
「逃げるつもりなどない。2、3聞きたいことがあるだけだ」
「聞いたところでどうなるものでもないだろう」
「私の生体を提供せよと言うのなら、知る権利くらい要求しても罰は当たらんだろう。どの道助からないなら…」
オスカルはぐっと自分の顎下に銃口をあてる手に力を込めました。

「ま、待て。抗体を採取するだけだ。命まで取るとは言っておらん」
「ほう、脳に損傷を残さずメスを入れるよう気遣っていただけるわけか。親切なことだ。ところで細菌兵器とやらは、もうすでに完成しているのだな?」

「している。弾頭の照準はほぼ北半球に分布する主要国家の首都に合わされている」
「全てここから操作可能なのか?」
「可能だ」

「フィアー・チェインウィルスとか言ったな。感染経路と潜伏期間は?」
「感染力は非常に強い。空気感染で呼吸器から侵入する。潜伏期間は個人差がある。データ不足だ」

「成る程、知り合いの男が実験体として捕えられていたが?」
「実験従事者が開発途中のウイルス漏出に触れた。完成前のウィルスではあったが、非常に症状が強く出て、研究者が自殺した経緯があった。だからまずはワクチンが完成するまで、研究者を守る意味で人体実験は凍結されていたのだ」

「では、人体実験そのものが計画されていたことには間違いはないのだな」
「その通りだ。しかしそんなことを聞いてどうするのだ」
「私はどうもしない。どうもしないが…」

オスカルは左手で構えていた自動小銃の筒先に、首に掛けていた細い鎖を引っ掛けると吊るしていた小さな十字架を取り出しました。
「超小型の通信機だ。今の会話は全てフランス国防庁と国連本部に中継した」

ドゲメーネが勢い良く立ち上がり、オスカルに掴みかかろうとしましたが、それより早くオスカルはドゲメーネの背後にまわり、右腕でドゲメーネの首を締め上げ、こめかみに銃口を突きつけました。その二人の周りに武装兵がずらりと銃口を向けます。

「諦めろ、じきにこの島は包囲される。兵士諸君。無駄なことはするな。君達にしてもウィルスの脅威からは守られていないのだぞ。君達の上司は危険極まりない賭けにでているのだ。聞いただろう。たった一人の人間しか持たない抗体から短期間にいったいどれだけのワクチンが精製できると思うのだ?君達は使い捨てにされるのだということがわからんか!?」

オスカルのその言葉に、円陣を組んで二人に銃口を向けていた兵士がにわかにざわ
つき始めました。

「惑わされるな、こいつは命が惜しくて口から出まかせを言っているだけだ。国防庁などに通じているなどとな!オスカル・フランソワ、あれが何だかわかるか?ミサイルの発射コントロールスイッチだ。今すぐ私を解放しないとスイッチを押させるぞ!」

ドゲメーネが顎でしゃくり上げた先には、エリザベート・モンテ・クレールが立っており、手にはしっかりとコントローラーを持っていました。

「自分達まで被爆するつもりか!」
「ふふ、スイッチを押してからミサイルが発射されるまで20分、高度を上げたミサイルが成層圏に衝突して散弾するまでに10分。それだけの時間があれば、貴女を取り押さえて抗体を取り出し、脱出することは可能だわね。

仮に貴女の出まかせが本当だったとしても、今この時点で島が包囲されているのでなければ、私達を取り押さえることは無理よ。5分後には陸空共に脱出できるようにスタンバイしてあるわ。わたくしのかわいい部下達もちゃんと脱出できるわ。

ウィルスの届かない南半球の基地まで行ったらゆっくりとワクチンを精製しましょう。さあ、今このスイッチを押されたくなければドゲメーネを離しなさい!」

援軍が自分の通報をキャッチしてやってくるまで、1時間か2時間か。
何とかそれまでスイッチを押させないように時間を稼がなければなりません。その為にはもう一度捕まってチャンスを作り出すしかない。オスカルは唇を噛んで、ドゲメーネの首に回していた腕の力を緩め、それを合図にオスカルを取り囲む武装兵の輪がざっという足音とともに一歩小さくなりました。

その時です。大爆音とともに、バリバリと機関銃掃射の音が響き渡り、コントロールルームを囲むガラスが一編に粉々になって砕け散りました。爆風が吹き込み、兵士達は一斉に床に伏せました。

ガラスのすっかりなくなった部屋の外には。もう一度旋回して戻ってきた白い小型戦闘機。オスカルの耳にセットされたままになっていたイヤホンに聞き慣れた声が響きました。
『メインコンピューターから離れて伏せろ!オスカル!』

真っ直ぐ戻ってきた機体のコックピットが全開され、操縦席から立ち上がった男がロケット砲を肩に担いで狙いを定めています。轟音が響き、砲弾が一直線にコントロールルームの中心を貫きました。戦闘機は建物ぎりぎり直前で右90度に急旋回して離れて行き、機体の陰が去った後に、唖然としたドゲメーネとエリザベート・モンテ・クレールの目に映ったものは。

海を埋める海兵隊、空を埋め尽くす空軍編隊、軍用ヘリ。
「これでもう観念するんだな」
近づくオスカルに、ドゲメーネは血走った目をむき、狂ったようにマシンガンを乱射させ、叫びました。

「畜生!見てろ!こうなったら何もかも終わりにしてやる!」

そこには一人の怒りに満ち満ちた男がいました。オスカルは直感的に、この男が自分の野望が打ち砕かれた腹いせに全世界をも道連れにする程の狂気に囚われていることを悟りました。

たとえ刺し違えてでもこの男をここで仕留めてしまわなければ、何かとてつもない行動に走る。オスカルは、でたらめなマシンガン掃射を何とかかわしながら、手に持った小銃に力を込め、自分の身をひっきり無しに掠めて飛んで行く弾丸の前に身を晒そうと膝を立てました。

するとマッドサイエンティストがとち狂う肩越しの上空に、また戻って来た白い戦闘機が目に入りました。
『アンドレ…!』

ここまで来てくれた、もう一度会うまでは死ぬわけにはいかない。オスカルは飛び出そうとしていた体を再び瓦礫の山の陰に隠し、銃を構え直しました。戦闘機は空中で一回転すると、青い色つきの煙幕を噴射しながら近づいて来ます。
オスカルは息を呑みました。

『Marry Me O』

青い煙幕ははっきりと空に文字を描き、オスカルの際を通り抜けていきました。煙幕が窓のないコントロールルームに入り込んできます。視界の悪いこの状況では、マッドサイエンティストは、訓練を積んだオスカルの敵ではありません。

姿の見えない相手から、耳元に二発銃弾を掠められて、マッドサイエンティストは縮み上がって階下へ逃げました。その後には戦意を喪失した兵士がのろのろと起き上がり茫然としているばかり。オスカルは急いで二人を追いました。

追いながら、オスカルは決して煙幕のせいばかりではなくしみる目をこすりました。
「ばっかやろう!あんなプロポーズがあるか!こんな時に!」

ミサイル発射台が居並ぶ地下格納庫。そこには開発されたばかりのフィアー・チェインロケット弾以外にも、幾種類もの核弾頭がセットされていました。
「見ていろ!全ミサイル発射準備!全て手動だ!急げ!」

ドゲメーネの声が全館に放送されます。オスカルは一旦二人を追う足を止め、中央管制塔に戻りました。今度はオスカルの声が響きます。

『この基地はすでに完全包囲された!無駄な抵抗は止めて投降しろ!ドゲメーネはもはや正気を失っている!彼の命令に従えばただ自爆するだけだ!死にたくなければドゲメーネ拿捕とミサイル発射解除に協力しろ!』

オスカルの声に、闇十字救世軍兵士達の動きが変わりました。オスカルの行く手を阻もうとしていた兵士が、オスカルを先導するようになり、オスカルを地下格納庫へ導きます。後ろからも援護の兵士が続きます。判断に迷う兵士や、ドゲメーネをまだ信頼する兵士達との銃撃戦があちこちで起きましたが、オスカルは何とか地下格納庫へたどり着くことができました。

そこにはドゲメーネだけではなく、脱出の準備を整えた十数名の武器商のボスが集結していました。

「オスカル・フランソワ、勝ったつもりだろうが、遅かったな。手動で生きているミサイルの発射スイッチは押された。我々の脱出経路は約束されている。ミサイルは全て10時の方向にセットされている。集結している海兵隊を一瞬で消してしまえるだけの核弾頭の用意がここにはあるのだ」

「それはどうかな?自分達だけで脱出しようとしているあなた方の為に、いったいどの兵士が働きたいと思うのだ」

ドゲメーネ一行を囲むようにした迷彩色の軍服を纏った重武装兵士が12名、彼らを守るように前に出て、オスカルに銃を向けました。

「なに、一緒に連れて逃げてやると約束すれば、この通りいくらでも言うことを聞く兵士はいる。それではごきげんよう。あとは存分に仕掛け花火を堪能してくれたまえ」

そう言い捨てると、大型戦闘機に分乗して乗り込もうとしたドゲメーネ一行でしたが、その頭上に、どっか~~~ん!と大爆音とともに崩れた天井の瓦礫が火の粉とともに落下して来ました。もうもうとあがる土埃の向こう、ぽっかりと開いた壁の大穴に、両肩にバズーカ砲を担いだ長身の人影が浮き上がり。

そしてその影は、あたふたと腰を抜かしているドゲメーネ一行と、彼らを囲む12名の兵士にゆっくりと砲口を向けました。怒りに震えた男のまわりには土埃が憤怒の炎のように舞い上がっています。
「この…くそったれ!てめえらしまいにぶっ殺すぞ!」

12名の兵士、彼らこそ、アンドレの元仲間だったのです。埃にまみれたアンドレの両ほおには太い涙の線がくっきりとありました。アンドレに泣きが入っている!これは超危険です。オスカルは恋人に向かって猛ダッシュしました。

二つの砲口がもう一度火を噴くのと、
「違うんだ!アンドレ!止めろ!」
そう叫ぶオスカルがアンドレに体当たりしたのは、ほぼ同時でした。

オスカルの体当たりで照準がずれたアンドレの砲弾は、兵士のわずか数センチ前の床に大穴を開け、12名の兵士は後方に吹っ飛びました。ひゅうっと口笛を吹いた一人の兵士が起き上がろうとするところへ、アンドレはもう一度バズーカ砲を構えましたが、オスカルがすっと手を添えて、それを制しました。

「止めろ、いいんだアンドレ」
ガタリ、とアンドレの肩から武器がすべり落ち。怒りと悲しみでわなわなと震える彼の両腕をオスカルが掴もうとするより早く、オスカルは息も出来ないほど強く抱きすくめられていたのでした。そして耳元で興奮に弾んだ荒い息で囁かれる声。
「おまえが…無事なら…いい…」

オスカルに背を優しく何度も撫でられ、叩かれ、ようやく落ちつきを取り戻したアンドレがオスカルの肩越しに見た光景は、再びアンドレを愕然とさせるものでした。

「ドゲメーネ、モンテ・クレール、以下10名。逮捕する。インター・ポールだ」

そう言って次々にドゲメーネ一行に手錠を掛ける、ダグーおっさん、アラン。
さらに、アンドレの胸から顔を上げたオスカルは、どうにも切なくやり切れない、といった表情をアンドレに向けると、ミサイル発射台のまわりにいる兵士達に声を掛けました。

「ミサイル手動発射装置は解除できたか! フランソワ、ジャン、ラサール!ピエール!」
「完璧です!隊長!」
「ダグーおっさん!いや失礼大佐、危険物処理班への連絡は?」
「もう、上陸する頃でしょう」
「よし、ご苦労」

アンドレは、ただ茫然と立ち尽くすばかりでした。オスカルが戻って来て済まなそうな顔を向けても、アランが『悪かったな』とぽん!と肩を叩きに来ても、ダグーおっさ…大佐に
「君のおかげでしたよ。我々だけでは危ないところだった」

と労われても、一言も発せずに真っ青に血の気を失った顔で、ただただ微動だにせず、立ち尽くしていました。

そのアンドレの冷たくなった手をオスカルが取りました。
「アンドレ、許してくれ。私は…国際組織犯罪対策部国際捜査官特殊工作員なんだ」
アンドレは動きません。ダグー大佐が傍に来ました。

「アンドレ・グランディエ君。3年前、君の目の負傷をきっかけに、君と一緒にGIGNを退役してしまった隊長に、しつこく協力を働きかけていたのは私だ。普段は民間人として普通の生活を持った特殊工作員として、どうしても必要な人材だった。君の名もあがっていたのだが、もう君を巻き込まないで欲しいという隊長のたっての…」

「ダグー大佐、それは!」
オスカルがダグー大佐を遮りました。
「どんな理由をつけようとも、最終的に決めたのは私だ。アンドレを欺いていたのも事実だ」
「しかし…!」

アンドレが低く呻くように声を出しました。
「…いい」
「アンドレ?」
「もう、いい」

アンドレはダグー大佐の胸倉を掴むと、言いました。
「俺も逮捕してください」
「君に逮捕状は出ていませんよ」
「アラン!早く俺に手錠を掛けろ!」
「おい、落ち着けって。なぜそんなことをしなくちゃならねえんだ」
「いくらでも罪状はある。不法な盗聴、恐喝、武器盗難に不法銃器所持、戦闘機盗難、器物損傷…何だっていい!」
「だから、逮捕状なんぞ出ちゃいないんだって!」
「おまえが今連行した連中だって逮捕状なんぞ出ていないだろう!」
「いーんだよ、あいつらは現行犯だ」
「それじゃ、俺と同じだ」
「…」
「アンドレ、ICPOはフランス政府から、任務遂行中の政府機関同等の特権と免除を受けている」

オスカルのこの一言に、アンドレは声を荒げました。

「俺は民間人だ!」

アンドレは、それを最後に口を硬く閉ざし、誰とも目を合わせようとはしませんでした。


つづく
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。