18プライスレス

2018/11/04(日) 暁シリーズ

1789年7月26日


国民衛兵隊は階層間の対立で、内部分裂の危険を孕むほど荒れている。そこへ来て全フランス衛兵隊が正式に国民衛兵隊に吸収されることになった。意に反して無理やり国民衛兵隊に組み込まれる兵士をいかに率いるか。

新しい課題が生まれた。国王陛下は国民衛兵隊をフランスの正規軍として承認され、元衛兵隊員には変わらず国庫から給与が支給されることが決まった。私について来てくれた部下のように、謀反人となるのを厭わないほど強い意思を持つ兵士ばかりではないが、国王陛下に認められた上に給与の支給が継続されるなら、隊の中核として市民兵を牽引する力を発揮してくれるだろう。私はそう期待している。

内部分裂の危機にあるのは国民衛兵隊だけではない。
飢えた人々の抑圧された怒りの堰が切れたのが7月14日だった。この濁流を、力を持つ少数が都合よく利用しようとしている。王党派貴族、亡命貴族、自由主義貴族、法曹界、ブルジョア市民。一様に市民の飢えを使って自分達の属する階層に利を得ようとしている。

旧体制の機能の臨界点に達していることは事実だから、今後も崩壊は続くだろう。しかし、新体制の構築をめぐり、国民同士、階層間で対立を続ければ国は分裂する。私に何ができる訳ではないけれど、国民の尊厳が守られた新しいフランスの再建と、過渡期の混乱による国の崩壊を防ぐために貢献したい。私にとって、それはパリの治安維持であり、素人集団と呼ばれる国民衛兵隊を、正規軍として底上げすることだ。

だが体が悲鳴を上げた。
「嘘から出たマコト・・・かな」
「ふん、どこがマコトだって?」

小憎らしいことを言うアンドレにいつものように噛みつく私につける薬はない。でも、どんなに国を憂えても、もうかつてのような捨て身にはなれないわたしがいる。

先日アンドレが口から出まかせに放った言い訳を結局押し通す羽目になった。パリに戻って間もなく、無茶な体の駆使のツケが回ったか、私は高熱を出し、アンドレや部下を酷く心配させる事態を招いてしまったのだ。

ここへ来て人騒がせな私はようやく医師の診断を仰ぐ決心をつけた。結果、万に一つの幸運な思い違いという期待は見事に外れ、わたしは結核という現実を直視しなければならなかった。

アンドレとの約束がわたしを支えた。死、または愛する者との突然の別離への恐怖は、これからも常にわたしの背後にあり続けるだろう。今しばらくは、恐れと不安を扱いきれずに自分を見失うことがあるかも知れない。

けれど、わたしよりさっさと先に覚悟を決めていたアンドレが、冷静に事実を認めつつ傍にいてくれた。遅れてこれから病と向かい合う私にとって、そのタイムラグは救いだった。

誰かの為に生きたいという願いを一度自覚してしまうと、その力強さに驚く。それは愛されたい、失いたくないなどの受身の願いを遥かに凌ぐ。アンドレの不屈の力の源はこれだったのだ。

少し前までは、勝算が低いのを見てとって、敗北を恐れるあまり戦う前から逃げ出そうとしていたわたしだった。捨て身の行動は一見勇ましく見えるが、生を貫くことはもっと勇気が必要だ。

愛する者を守りたければ、自分をも守らなければ嘘だ。わたしの視野は一日にして180度転換してしまった。今更ながら父母を筆頭に私を大事にしてくれた人々へ、いかにわたしが心配をかけてきたか、ひたすら身につまされる。

アンドレとわたしは、今新しい可能性を模索している。わたしが体力と健康を取り戻すことと、軍での責任を果たすこと。これを両立させようという試みだ。酷く無謀に思えるが、今考えつく選択肢の中ではこれが一番心が動く。ならば、後悔はしたくない。

僅かな時間で最低限のことだけを決めた。わたしの身体が休養を必要としていること、いつまでも元部下にボランティアで護衛をさせることには無理があること、新聞がバスティーユ攻落を必要以上に劇的に煽り立てるたびに、わたしの存在が益々神格化し、政治的利用のターゲットにされていること。それらに対応する必要があった。

近衛時代も、衛兵隊時代も、頑固な現場主義者であるわたしは現場の全てを自分の目で確認しなければ気が済まなかった。官僚的な権威主義を伝統とする軍組織の中では異端児だったが、それはわたしの譲れない矜持だった。

しかし、現状の健康状態でその方針を貫くのは、無理がある。幸いと言って良いのか、国民衛兵隊は産声を上げたばかりの黎明期にある。権威主義を脱した新しい指揮系統の構築にチャレンジするなら今が好機だ。

そのためには身びいきと批判されることを承知でアンドレにわたしの秘書として動いてもらう必要があった。彼以上に私の名代を務められる適任者は他にいない。しかし、彼の負傷はいずれ時が解決するとしても、視力の問題がある。だから秘書とは言っても文官の役割は除外して、対外的な応対を彼に託す心づもりだった。

アンドレは別のことを考えていた。彼は中央司令部で庶務を務めることを望んだ。そこで軍の動き全体を常に把握し、最新の情報を分析しながら、わたしが師団長として最も効率よく動けるように戦略をたてると言う。言わば後方支援だ。

しかも彼は当分視力障害を上層にはに伏せておき、仕事をこなせることを印象づけてから公にすると言うのだ。そうしなければ、能力問題以前に、偏見でチャンスが潰されてしまうと彼は主張した。

司令部総務部には元から秘書としてパリ留守部隊で勤務していたル・クレジオ中尉はじめ、元衛兵隊の面々が引き続き同じポジションに配置されていた。衛兵隊時代、私の補佐で頻繁に連携するうちにすっかり彼らと顔馴染みになっていたアンドレは、すでに抜け目なく彼らに協力を依頼していたのだった。

同僚と役割分担が確立されれば視力問題は克服できるとアンドレは考えた。急遽組織された国民衛兵はパリだけでも三万人の大所帯だ。管理量は膨大だが、即戦力になる将官は亡命で激減し、軍需物資の手配配分、経理、人事、その他雑庶務一般、今は全てにおいて野戦場のような有様だった。

だから今がチャンスなんだ、とアンドレは言う。仕事量が手に余る混乱期だからこそ、見えない身体でも役割を確立してしまえばこっちのものだ、と。わたしの秘書としてだけでなく、総務部で必要不可欠な存在になってしまえば何かとわたしの役に立てる、とさらりと言ってのける。

アンドレの人柄と機転の良さ、そして長年私の補佐を通して得た軍務の知識を知る元パリ部隊総務部は、失明を打ち明けられても、彼を欲しがった。パリに人は溢れていたが、身元のはっきりした使える人材は絶望的に足りなかった。

正直に言えばアンドレの思いつきには反対したかった。彼は単にわたしの代理を務めるだけではなく、軍全体の情報を網羅し、わたしが最小の労力で最大の結果を出せる基盤をつくるつもりなのだ。見えない体でどれほどの努力を重ねるつもりなのだろう。それに敵の多いわたしの代わりに標的にされる危険も排除できない。別行動が増えればわたしは彼を守り切れない可能性がある。

さらに正直に言えば、わたしは寂しかったのだ。物理的な別行動はもとより、別の場所で彼がわたし以外の誰かに必要とされることが。しかしアンドレの決心は固く、見えずとも自分の可能性の限界に挑戦したいという気概も見えた。彼の可能性を摘み取る権利はわたしにはない。傷が完治するまでは時間減勤務を厳守することを条件にわたしは了承した。

「最初だけだよ。おれ無しでは現場がまわらないと認識された後でなら、見えないことが明らかになっても誰も文句はないだろう?誰もが納得せざるを得ない仕事をする。できるよ」
「一つ、問題がある」
「何?」
「上官としても間の抜けた話だが、私は結婚する相手が盲目だということを知らない阿呆になるのだな?それは少し不自然じゃないか」
「う~ん、そうか、それを忘れていた」
「・・・忘れるな」
「じゃあ、結婚したら花嫁の美しさに目がくらみました、ってことにしておこう。どう?」

・・・バケモノか、メデユーサか私は。
馬鹿野郎。おまえは自分のことだからそうやって失明ネタをジョークにも出来るのだろうが、わたしにはまだ無理な話だぞ。

「まあ、いい。その代わりやってみて仕事にならなければ容赦なく切る・・・ぞ」
「ああ、その時は遠慮するな。・・・あ・・・あれ?オスカル?」
堪えきれず涙をこぼしたわたしをアンドレが慌てて抱きかかえ、談義はそこで一旦中断した。

時々、冗談にでもすり替えてしまわないと、耐えられなくなることがある、とわたしを抱いたアンドレが白状した。軽率な物言いだったと詫びながら、他の何を割り切っても、ほんとうはおまえの姿が見えないことだけは辛いし苦しい、とわたしの髪に顔を埋めた。

それなら、最初から平気なフリなどするな。もう口に出すことはできないけれど、本当はわたしだっておまえにだけは美しいとため息の一つでも漏らして欲しい。可笑しいか?別にそれで何が変わるわけではないけれど、やっとそんな風に思えるようになった時に、もう望めない夢と知った。でもやっと正直に弱みを見せてくれたのはおまえにしては上出来だ。褒めてやろう。

アンドレがジャルジェ家で見聞きした一部王党派の動きと、エスカレートするわたしについての報道は無関係ではない、というのがベルナールの見解だった。私の利用価値を吊り上げるために買収されたジャーナリストが煽り立てている節があると彼は言う。

先に言い出した者勝ちなのが昨今の報道だった。わたしとアンドレの結婚は格好の話題を否応が無しに提供することになるだろう、とベルナールは断言する。バスティーユの女神が一平民を伴侶に選んだ理由を、伯爵令嬢の身分を越えた何とかかんとか扇情的な美談として祀り上げられるか、売名行為として非難されるか、偽装工作に男の純情を利用する卑劣な行為とされるか、卑猥な憶測が飛び交うか。

およそ考えつく限り全ての書かれ方をするだろうが、興味半分で面白がられるだけでなく、世論を意図的に操作する駒に使おうとする存在が必ず出てくる、とベルナールは心配してくれた。だから、絶対に事前に結婚の情報が漏れないようにする必要がある。そして結婚式と同時に正確な情報を広く拡散するべきだ、と彼は提案してくれた。ベルナールの旧知の信頼できるジャーナリスト達の協力も募ってくれると言う。

「天下のオスカル・フランソワだ。どうせ後から二番煎じで尾ひれがついた記事も出回るだろう。そんなものにかき消されない位にリアルなオスカル・フランソワ像を結婚式の日に発表しよう。根拠の無い作り話など、陳腐にしか見えん程のやつを書いてやる。同意さえ貰えればだが・・・」

個人のプライベートを書くのは専門外だが、と言って少し照れくさそうに赤くなったベルナールが印象的だった。アンドレは気遣うように無言でいつもの笑みを浮かべている。ベルナールは少し前にアンドレの失明を知らされたばかりだった。

「アンドレの名を伏せることは出来るか?」
わたしは仕方がないが、アンドレを衆目に晒すのはいやだった。しかし、すでに腹を括っている彼は一言も異議を唱えず平然としている。

「どうせ後からすっぱ抜かれる。かえって逆効果だ」
「そう・・・か・・・」

ベルナールの友情に心から感謝して、わたしは了承した。ベルナールは嬉しそうに私達を祝福してくれ、もうしばらくロザリーに内緒にしておかなければならないのはきついな、と言って頭をかいた。


仮設営だった国民衛兵隊中央司令部は市庁舎からフランス衛兵留守部隊へ移された。そこでアンドレは司令部内勤専従秘書官として勤務することになった。わたしは体調が整うまでマロン館で当分謹慎だ。

ばあやに与えられた後にアンドレが相続したマロン館は、サン・トノレ街から真っ直ぐ北に伸びるダンタン通りのほぼ突き当たりにあり、国民衛兵隊中央司令部は目と鼻の先だった。しかし、アンドレは引き続きサン・クレール男爵邸に滞在し、負傷兵の世話をしながら勤務に当たる。

ベルナールの助言に従い、彼がわたしに関する記事を書き終わり、わたしの体調が落ち着き、結婚式を挙げるまで、わたし達は別に暮らすことにしたからだ。会えなくなる期間がわからないのはかなり辛い。

結婚式は体調の回復を待たねばならないから、わたしは本気で療養しなければならない。わたしが不自由なく療養できるようにアンドレもいろいろ計画をたてていたのだが、マロン館に足を踏み入れて見たら暮らしに必要な調度が完璧に揃っているし、館内は清潔に整えられていたので驚いたそうだ。

マロン館は二人の小間使いと初老の門番が管理していた。二人の小間使いのうち一人は五十台に手が届くかと思われる小柄な婦人で、笑顔が地顔なのではないかと思われるような愛らしい表情がなかなか魅力的な人だった。もう一人は黒目がちな16歳くらいの少女で、どこかエキゾチックな面立ちをしていたが、非常に無口な性質らしかった。

二人とも修道院から派遣された修道女見習いで、一定期間以上、家政一般を奉仕して初めて修道女として認められるのだそうだ。タイプは違うが二人とも予めわたしのことを聞かされていたようで、多くを言わなくても的確に世話をしてくれた。多分、二人は母のコネクションでマロン館に来たのだろう。

マロン館というネーミングは少し切ない笑いを誘う。あくまでも長年の功労に報いてばあやに与えたのだ、おまえには関係ないとうそぶく父の顔が目に浮かぶ。身分も地位も一切を捨てて実家を出たつもりだったのに、私は未だに両親に守られているのだ。

一切を捨てて出てきたからこそ、自由に行動を選ぶ資格があるつもりでいた。だから間接的にであっても両親の庇護を受けることには複雑な思いがあった。それを言うと、アンドレはわたしにこう言った。

「旦那様は一貫して『家督を継ぐ者』が失われた、という言い方を通された。娘をなくしたとは言わなかったよ。おまえが大切な娘であることだけは変わらない」

そんなことを言われたら、泣きそうになってしまう。アンドレが持ち帰った財産目録を丸めて掌に打ち付けながら、嫁入りの持参金にしては安く上げたなと苦し紛れの憎まれ口を叩いたら、『この不良娘』と睨まれた。

おまえこそこんな法外なおまけをつけられたら甲斐性なしと認定されたも同然じゃないか、悔しくはないのか、と切り返したら、『天の邪鬼』と呆れられた。

本当はわたしにもわかっている。不動産がマロン館ひとつだけなのは、きっと管理運営の手間を考えてのことだ。ロケーションも吟味した上で購入したに違いない。司令部は目と鼻の先だし、厳密に言えば城壁外にあたるこの地区は、まだ建物が密集していないから大気の汚染が少ない。わたしの名義だった荘園は国債と証券に形を変えてある。短期間で準備したとは思えないほど考慮された内容だ。

だが、わたしは往生際が悪かった。額面が大きすぎるのは、取りようによってはアンドレには屈辱だろうに。彼に八つ当たりするのは見当違もいいところだが、抗議の意味も含めてわたしの悪態は続いた。

「おまえの障害補償年金だが、障害とは視力のことだろうか。それとも『わたし』がおまえの『障害』と見なされたのか?ふん、どっちにも取れるな、終身だしな」

アンドレは駄々っ子と化したわたしにがっくりと肩を落として首を振った。
「視力!でしょう。それにこっちの方の障害物は…」
そう言って私に身を預けるように体全体で抱擁すると、低く耳元で囁くという反則技に出た。

「値がつかない」

わたしの照れ隠し半分の憎まれ口はあっと言う間に底をついてしまったのだった。

アンドレはちっとも屈辱ではなかった、と言う。愛しか感じなかった、と。だが、彼がわたしと父母の親の情のために自尊心を横に押しやったことは確かだ。

わたしの愛しい男は、優しげで、見ようによっては自分の意思を持たない印象すら感じさせる。けれど、彼の優しさは底なしの強さに裏打ちされていることをわたしは知っている。わたしの密かな自慢だ。わたしがばあやから彼を相続した。証文はない。
値がつかないものだから。

そろそろ戻ると言う彼を、寂しさを隠すために不機嫌な声で送り出したくなかったので、わたしは急いで切り替えた。仕度を終えて目の前に立つ彼の右手首を引っ張り、強引にわたしのとなりに座らせた。

アンドレは勢い余り着地に失敗し、後ろにひっくり返って上等な絹の夜具に半分埋まった。この館は何一つ足りないもの無く調度が整えてあったから、わたしが腰かけていたマットレスは最高にクッションが効いていたのだ。

「ま新しい軍服は硬くて傷に当たるな、大丈夫か?」
「その優しい声の主と、この乱暴な扱いの主はきっと別人だよな」

アンドレがわざと明るく憎まれ口をきく。
助け起こすと、糊のきき過ぎた硬いウールの生地が折れ曲がり、彼の胸から肩を圧迫した。彼はつっと小さく声を上げた。

アンドレの左胸にそっと手を沿わせ、仕草で心配していることを訴える。
「大丈夫だよ、半日の約束は守るから」
どうだか。おまえは人のことばかりを考えて、自分のこととなると、自己制御ができるようでできないだろう。アンドレは、わたしの沈黙を読んだ。

「その様子では信用していないな」
おお、していないとも。
「覚悟してろ、この次に会う時はこんな程度ではすまないぞ」
アンドレは笑いながら両手でわたしの頭をはさみ、くしゃくしゃと思いっきり髪を乱した。止めろ、とじゃれ合い体勢に突入しかけたが、重大な変化を発見した。

アンドレが両手でわたしを挟み込んでいる?彼の不自由な左腕を掴み、引き寄せると、彼は私の目の前で拳を握ったり開いたり、指を一本ずつ順番に折り曲げて見せた。
「おまえ、手が・・・!」
「はっは、やっと気付いてくれたか。肩から頚の腫れが引けたら、昨夜あたりから少しずつ感覚と自由が戻って来たんだ」

嬉しくて胸が詰まってしまった。アンドレは、まだ厚い手袋一枚被ったような感覚だけどな、といくらかぎこちなさを残す動きでわたしの右頬を辿ってから、前髪を掻き揚げて額に軽くキスをくれた。昨日に比べれば格段に巧緻性のよい正常に近い動きだ。良かった。

「本当だ。次に会うときにどこまで回復しているか楽しみにしている」
そう言う私にアンドレはおどけた敬礼を左手でして見せた。
「おまえのこれからの勤務形態と、護衛体制は出来るだけ早く組み立てて来る。本当にいいんだな?俺の判断に一任で?」
「ふふ、わたしのことはおまえの方がよく知っている。間違いない」
「だから・・・さ、難しいよ。おまえの負担は減らしたいけど、おまえの性分もよく分かるから、その兼ね合いがな」
「では、逐一私が指図・・・」
「お任せください!隊長!」

そんなに慌てなくてもわたしの腹は決まっていると言うのに。それこそわたしの性分では過密スケジュールしか思いつかないのだから、おまえに任せた。それを私が決めた。

「頼んだぞ」
「分かった。おまえも」
「うん」

おまえも、の一言にぎっしり込められた彼の期待に精一杯応える。大丈夫だアンドレ。
わたしも・・・模範囚にしているから。

次にいつ会えるのかわからないのに、アンドレはあっさりしたビズひとつだけで出て行った。それでもわたしの心は喜びに満ちていた。昨夜から感覚が戻って来たって?意識的なのか無意識でのことなのかは知らないが、去り際に良い知らせをくれるところが、あいつらしくてくそ憎たらしい。ちょっとそこまで出て来る時のような、さり気ないキスで別れを軽くしてしまうところも。

          

          ~to be continued~

                     

             【謝辞】
「私がばあやから彼を相続した」このフレーズは、メールを下さった咲羅さまの一言をお借りしたものです。快く承諾くださった咲羅さま、ありがとうございました。

2004.11.3
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