三部会は開会直後から大荒れに荒れた。第三身分議員が勝手に国民議会を設立し、あろうことかそこに合流する第一、第二身分議員が現れた。
かつてないほどの発言力を得た第三身分議員らは、着々と支持者を増やしてゆく。窮屈な甲冑を脱ぎ捨てようとする時代の身じろぎがたてる地響きを、誰もがそれぞれの立場から感じていた。ベルサイユは今や身分間の摩擦が火花を散らす舞台となったのだ。
となれば。
過去にいかなる確執があったとしても、王族警護を担当する近衛隊と王宮警護を担当するフランス衛兵ヴェルサイユ部隊は連携して治安維持にあたるのが大人の対応というものであろう。
そのためには、フランス衛兵総司令官であるブイエ将軍と近衛連隊総司令官であるジャルジェ将軍の間では日常的に連絡を密にする必要があった。
しかしこのふたりの頑固爺らの大人気に期待するなど、この国家の存亡の機に暢気すぎるであろう。当のご両人にその自覚があるかないか不明だが、互いに顔を突き合わせずに連絡を取り合うことで余計な衝突は今のところ避けられてはいる。
その代わり、両者間に行きかう文書の数は膨大になった。ただジャルジェ将軍側には、ブイエ将軍を飛び越しベルサイユ部隊長である末娘に直接近衛の要望を伝えるという非公式な選択肢がある分有利だった。
国家のかなめの安全を守る。この崇高なる目的を共有しているのだから、わしの方が有利よ~ん、などとのたまっている場合ではないのだが。しかし、ジャルジェ将軍は有効活用している。だって、ブイエ将軍を飛び越した方がはるかに話が早いのだ。
ただし。
末娘は末娘でなかなかの食わせ者なので、将軍の思い通りには動かない。特に、父親の威厳を笠に着て命令などしようものなら、思い切り辛辣な屁理屈返しの洗礼を浴びるはめになる。女扱いされると不機嫌になるくせに、しゃらくさい口がいくらでもきけるのは、女の特技でなくて何なのだと言いたくなる父である。言わないけど。怖いから。
若干悔しくないこともないのだが、直接モノ申すよりも従者を通した方が不詳の頑固娘の聞きわけが格段に良いのはまぎれもない事実だった。
この傾向は年齢と比例して顕著になっている。父娘が刺し違えることなくこれまで生き延びて来られたのは、似た者同士の間で従者が緩衝材として機能してくれていたからに違いないと、実は密かに大いに頼りにしている将軍だ。
しかも、そこのところをちゃんと自覚している自分こそ、娘より一歩先んじていると自画自賛すらしている。娘の方は従者に甘やかされ過ぎて、そこまでの客観視はできていないはず。
一方ブイエ将軍側にはそのような便利なつてはないと見えて、一日と空けず伝令に伝文を持たせて寄越す。
そんくらい、娘に直接言えばいいじゃないか、と言いたくなるような些末な事柄まで文書にしてくる。言った言わないトラブルを回避しようとしているのか、あくまでも見たくない顔は見ない作戦か。
それとも娘に口では勝てないと観念してのことか。そうだとしたら、その気持ちはよくわかる将軍だった。同情ではない。むしろ、ざまあ見ろである。
とにかく、彼が筆まめであることが、フランスを救うことになるかも知れない。などとは意地でも言うつもりはないジャルジェ将軍であった。
かつてないほどの発言力を得た第三身分議員らは、着々と支持者を増やしてゆく。窮屈な甲冑を脱ぎ捨てようとする時代の身じろぎがたてる地響きを、誰もがそれぞれの立場から感じていた。ベルサイユは今や身分間の摩擦が火花を散らす舞台となったのだ。
となれば。
過去にいかなる確執があったとしても、王族警護を担当する近衛隊と王宮警護を担当するフランス衛兵ヴェルサイユ部隊は連携して治安維持にあたるのが大人の対応というものであろう。
そのためには、フランス衛兵総司令官であるブイエ将軍と近衛連隊総司令官であるジャルジェ将軍の間では日常的に連絡を密にする必要があった。
しかしこのふたりの頑固爺らの大人気に期待するなど、この国家の存亡の機に暢気すぎるであろう。当のご両人にその自覚があるかないか不明だが、互いに顔を突き合わせずに連絡を取り合うことで余計な衝突は今のところ避けられてはいる。
その代わり、両者間に行きかう文書の数は膨大になった。ただジャルジェ将軍側には、ブイエ将軍を飛び越しベルサイユ部隊長である末娘に直接近衛の要望を伝えるという非公式な選択肢がある分有利だった。
国家のかなめの安全を守る。この崇高なる目的を共有しているのだから、わしの方が有利よ~ん、などとのたまっている場合ではないのだが。しかし、ジャルジェ将軍は有効活用している。だって、ブイエ将軍を飛び越した方がはるかに話が早いのだ。
ただし。
末娘は末娘でなかなかの食わせ者なので、将軍の思い通りには動かない。特に、父親の威厳を笠に着て命令などしようものなら、思い切り辛辣な屁理屈返しの洗礼を浴びるはめになる。女扱いされると不機嫌になるくせに、しゃらくさい口がいくらでもきけるのは、女の特技でなくて何なのだと言いたくなる父である。言わないけど。怖いから。
若干悔しくないこともないのだが、直接モノ申すよりも従者を通した方が不詳の頑固娘の聞きわけが格段に良いのはまぎれもない事実だった。
この傾向は年齢と比例して顕著になっている。父娘が刺し違えることなくこれまで生き延びて来られたのは、似た者同士の間で従者が緩衝材として機能してくれていたからに違いないと、実は密かに大いに頼りにしている将軍だ。
しかも、そこのところをちゃんと自覚している自分こそ、娘より一歩先んじていると自画自賛すらしている。娘の方は従者に甘やかされ過ぎて、そこまでの客観視はできていないはず。
一方ブイエ将軍側にはそのような便利なつてはないと見えて、一日と空けず伝令に伝文を持たせて寄越す。
そんくらい、娘に直接言えばいいじゃないか、と言いたくなるような些末な事柄まで文書にしてくる。言った言わないトラブルを回避しようとしているのか、あくまでも見たくない顔は見ない作戦か。
それとも娘に口では勝てないと観念してのことか。そうだとしたら、その気持ちはよくわかる将軍だった。同情ではない。むしろ、ざまあ見ろである。
とにかく、彼が筆まめであることが、フランスを救うことになるかも知れない。などとは意地でも言うつもりはないジャルジェ将軍であった。
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